『老化するのは、人間だけではない!建物も共に老化していく...』
日本の抱える問題として、「人と建物」両方の老化に直面している。
これまでお伝えしてきたように、横浜市と東急電鉄が協力をして、たまプラーザ周辺の再開発に取り組んでいる。ハードだけでなく、人とのつながりなどソフトの面にもフォーカスして、「課題解決型の街づくり」を目指している。
たまプラーザ駅周辺の現状としては、再開発が徐々に進みファミリー層や高額所得者にとって、暮らしやすい街というイメージが定着している。その一方で、年金生活者や単身の若者にとっては、周辺部に比べ物価が高く、生活しづらいという声もある。
築48年のたまプラーザ団地は、駅から徒歩圏内の好立地に位置している。管理組合の元副理事の方々に、大学院の研究課題において「団地の抱えている問題」について、何度かお話を聞く機会があった。
年金暮らしの高齢者にとって、現在の団地暮らしは決して楽ではなく、建て替えや住み替え、修繕などの費用を考えると、先々が不安だと伺う。建て替えの話は、全く進んでいない状況なので、まずは安全を確保するために大規模修繕を行う計画である。
団地内の集会所では、サークル活動などが行われ団地内外の方々が出入りしている。それらのコミュニティ―に参加する人は、かなりの数いる。しかし、高齢の男性はなかなか積極的には、参加していないのが実情で、孤立している方もいるそうだ。
またハードの課題として、階段しかないために上階に住む高齢者にとって、上り下りが負担になるケースも考えられる。コミュニティーに参加したくても、身体的に無理な状況もある。老朽化が理由で転居する人も多く、売却できず空き家のままになるケースもあるという。
築50年近くなると、課題が蓄積されていき、それぞれの問題をスピーディーに解決していくことが求められる。住民の年齢層が高くなっているために、必要な判断能力がどんどん衰えて行く。
殆どの人が、自治会や管理組合に関心が低く、課題を先送りにしたいと考える人が大半になっている。特に若い子育て世代の人は、忙しく時間が無いため人任せになってしまう。また、長年の人間関係が複雑に絡み合っているために、あまり深入りしたくないというのが本音のようだ。
何度かお話を聞きして、やり取りをする間に問題の核心の様なものが見えてきた。ある時、研究に必要な資料の閲覧をお願いした。資料室に約50年分の大量の資料が保管されていたが、どこにどんな資料があるのか、はっきりと分からない状態で、無造作にファイリングされ詰め込まれていた。
結局、管理会社に問い合わせてやっと、データーで保管されていることが判明した。管理組合の役員は2年ごとに代わるため、重要な情報がきちんと共有できていないと分かった。
無事に大学院の研究を終えて、全面的に協力して頂いたお礼として、資料室の整理をお手伝いしたいと申し出た。①要不要で資料を分ける②誰が見ても、情報を共有しやすい状態に仕分け、整理する③ファイリング・ラベル貼りをする④不要な資料を処分する
などの作業である。
『同じ目的で作業をすることによって、一体感のような感覚を共有できるメリットがある』
『近い将来に訪れる、引越しに備えて片づけ方を知る機会になる』
と考えた。
副理事の方々には、内容をよく理解して頂けて、「片づけプロジェクト」を実行する日時まで決まった。
しかし、全ての役員の理解は得られなかった。皆が積極的ではなく、面倒なことは自分の当番でやりたくないのが本心になる。それと、目的をきちんと共有できなかったことが、実行できなかった理由だと反省する。
他に立ちはだかったのが、「個人情報の保護という壁」になる。外部の人間が、資料を処分する作業を手伝うことには、関われないと反対意見が出た。「アドバイスをするだけなら可能か?」と確認したが、残念ながら却下された。
~次世代に、上手くバトンタッチするには?~
現在、管理組合の業務を主体的に行っているのは、高齢の方々になる。次世代に管理業務をスムーズに移行させるには、正確で必要な情報を団地の所有者全員で、共有できる仕組みが必要である。
なぜなら、マンションにとって適正な管理の担い手が不足することは、大きなリスクとなるからだ。管理の担い手が不足すると、理事会や総会が開催されなくなり、管理組合としての意思決定を下すことが出来なくなることも考えられる。
管理組合活動に参加するのは、一部の区分所有者のみという状況に陥ると、一部の区分所有者に過度の負担がかかり、不公平感や不満を感じるようになる。また、役員の行動に対するチェックが機能しなくなった場合、一部の区分所有者による不法行為が横行するリスクも否定できない。
これから、更に建物が老朽化して、放置されるような状態になれば、個人の資産や団地だけの問題ではなくなり、街の価値までも下がる。街全体に影響が及ぶといっても過言ではない。もはや特定の団地の問題だけでは、すまされない。
先に述べた、やり取りの結果感じたことは、団地全体が機能不全に陥らない前に、対策をすることが重要だと考える。それには、外部の専門家の協力を得ることが大切になる。外部の人と連携しながら、今後の建物をどうするのかを、具体的に判断していくことが求められる。
『●●団地を孤立させては、いけない!』
~どうして、街の価値までも下がるのか?~
横浜市の住宅ストックは、約166万戸で約1割が空き家、住宅世帯のある住宅の約6割(約90万戸)が共同住宅となっている。築40年以上の住宅の割合は増加しており、平成20年では、9.1%となっている。
『これは、横浜市やたまプラーザだけの問題ではない...これから日本のどこでも起こり得る問題である』
世帯数は、2019年をピークに全国的に減少となることから、住宅の需要は減少する。過剰供給となった場合、適切に維持管理されていないような住宅(戸建・マンション)は市場から評価されなくなり、空き家化が進む。
空き家化が進んだ住宅は、ますます適切に維持管理が行われずに、劣化・老化が加速するという悪循環のスパイラルになる。
~老朽化したマンションを再生するには~
「出口」としては、①大規模なリノベーション②建て替え③区分所有関係の解消(更地にして土地として売却)
という3つの選択肢のなかから、自分たちのマンションに最適なものを選ぶ必要がある。
しかし、長い年月の経過により、区分所有者の属性が多様化する、高齢化に伴って気力・体力・経済力の余裕がなくなる、相続などを機に区分所有者の特定が困難になる。
このような問題が進むと、合意形成を図るのが非常に難しくなり、どの「出口」も選ぶことができなくなる。そして、前に述べたような悪循環スパイラルに陥る、「出口」が見つけられずに時間が経過→建物の劣化が進み→新たな居住者を探すのがもっと難しくなる。
近隣の建物や居住者にも悪影響を及ぼす可能性もあり、地域全体の資産価値が下がり、さらには、治安が悪化することにも成りかねないのである。
けれども、生活に大きな影響を与える建て替えに合意するのは、容易なことではない。高齢の区分所有者は心理的、身体的、経済的な不安も含め、現状を変えることへの抵抗が大きい。
この先、高齢化が進み・人口減少社会を迎え、老朽化したマンションをどのように維持・管理して行くかは、大きな社会問題となりうる。
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