【ライフスタイルのREデザイン】No.2ーつくる責任
『次世代へのリレー』
~自給自足のくらし~
幼い頃、しばらく祖母の家に住んでいたことがある。徳島の山間にある田舎町、今で言う古民家にふたりで暮らしていた。ある日のこと、薄暗い台所に私を呼び棚の中からカメを取り出し、中から白いどろっとした液体をコップに注いでくれた。
「おばあちゃん、これ何?」甘くて、少しだけ酸っぱい味がした。
「おいしい!」
「甘酒って言うんじゃ…」 と祖母が答えた。
『お酒? お酒ってこんなにおいしいものなのか…』そう思った。けれども、お酒を子どもが口にしては、いけないと知っていたから、このことは、絶対にしゃべってはいけない。そう、こころに誓った。『これは、おばあちゃんと私だけの秘密だ…』。
今でも甘酒を飲むたびに、亡くなった祖母を思い出す。でも、あの時飲んだ甘酒に勝るものはない。
祖母は、何でも一から作って皆に食べさせてくれた。田畑では、米や野菜の他にもあらゆるものを作った。さらには、味噌、醤油、漬物、梅干し、干し柿など…!
叔父から聞いて驚いたのが、こんにゃくまでも手作りしていたそうだ。当時、こんにゃく芋を買うと高くつくので、まず、こんにゃく芋を育てるところから始め、特別な器具を使って潰して作っていたのだ。出来の良いこんにゃくは、市場に売りに出して収入を得た。原材料費は、こんにゃく芋を買うより低く抑えられる。
何でも作るので、買うものは殆どないくらい、まさに自給自足の生活をしていた。
~パワフルで商才の持ち主~
祖母が17歳の時に嫁いだ当時、姑は商売人の家の育ちだったため、農業のやり方など分からず、畑は荒れ放題になっていた。本業は、林業を営んでおり、特に暮らしに困ることはなかったが、荒れた田畑を見かね開拓に手を付けた。馬で土を耕し馬糞は肥料に使い、見る見るうちに立派な田畑となり色々な作物を収穫できるように甦らせた。
ごぼうがたくさん収穫できた時には、叔父に連絡が入り市場に売りに行けと言われ、しかたなく会社を休んだそうだ。
それなのに、何の報酬も貰えなかったと記憶していた。息子に金銭を渡す代わりに、自分が丹精込めて作った野菜や料理を食べさせることが、何よりのご褒美だと考えていたようだ。
祖母は、特別な教育を受けたこともないが、“人を動かす力と商才”があったと感じている。
所有する畑の裏に大きな河が流れていて、その流れが急で土が削られ竹林が崩れそうになっていた。その問題を周辺関係者と協議して、意見を取りまとめ自ら先頭に立ち、町と交渉し護岸工事を行ったこともある。
~おばあちゃんのビジネスモデル~
祖母を手本に、「物とお金の流れ」すなわちビジネスの基本を叩き込まれ育った子ども達は、商売を立ち上げ一財をなした。
その教えは、今でも通用すると思う仕組みである。周囲の農家は、収穫した物を売り、残りは全て自分達で食べて使い切っていた。
しかし、祖母は収穫物を3等分にして、①来年の植え付け分のために残しておく、②お世話になった人に手渡す、③自分で食べる、と自己流のルールを守っていたと父から聞いた。
お金の使い方として考えると3つの柱になっており、「消費」と「投資」そして、「貢献」となる。その中に「浪費」は、どこにも見当たらない。将来のための投資だけでなく、お世話になっている人のために分け与える…
「他人のためにお金を使う方が、自分のために使うよりもっと幸福感が高まる」と、ある学者が証明している。
祖母は、このような研究結果など知るはずもないが、日々の生活から知恵を絞り自然に行っていた。
~皺だらけのセールスレディー~
いつもの畑仕事で、日に焼けていて皺もくっきりと刻まれている顔で、驚いたことに化粧品のセールスレディも、長年続けていた。
子どもを叱る時の声とは、まるで別人の様に滑らかな営業トークで、お客様と接していたらしい。たまに、母に会うと部屋の隅の方に呼んで、高価な化粧品を手渡していたのを憶えている。
母は幼い頃両親を亡くして、田舎料理はもちろんのこと畑仕事も、古いしきたりなども知らず、いつも何もせずにおばあちゃんの手料理を食べて、ただ美味しいと褒める役。しかし、母は可愛がってもらったと言う。「おばあちゃんは、怖かった」と皆が口を揃えて言うけれど、母が叱られた記憶はない…
強くて、逞しくて、賢くて、働き者、温かく、世話好き、優しい…
それが、祖母のイメージ。
~次世代へのリレー~
祖母が教えてくれた数々のことは、父をはじめに子ども達全員に、それぞれ違う形となって今も生き続けている。
特に、「人を集めて手料理を振る舞う、おもてなしのこころ」を一番教わった様に感じる。『ウルトラ・おばあちゃん』の「食育」として、 “次世代の家族”にもしっかりと受け継いでいる。
次世代へのリレーは、モノづくりにも通じている。日本の伝統的な技術や文化を次世代へと継承することは、日本らしさを保つことになる。
それは、世界へ向けて誇れる、日本独自の強みだと考える。
↓↓
http://life-detox.jp/lifestyledesign/catalog/
祖母との思い出の一枚。膝の上にいる娘も、25才になった…
最近のコメント